今からおよそ40年前、私が焼鳥居酒屋を始めた当初は、お客さまが一人も来ない日もあり、どうしたらお客さまがお店に足を運んでいただけるのか、どうしたら喜んでいただけるのかを必死で考え続けました。このときの想いと経験が、やがて「丸亀製麺」で追求することになった「食の感動体験」にもつながり、私たちトリドールグループの原点となっています。
そしてこの何年かの間、私はお客さまに心から喜んでいただくための源泉について、さらに深く踏み込んで考えるようになりました。さまざまな飲食の現場を見て感じたひとつの解が、お客さまと接する従業員であり、さらに言うならば、その人の中にある“心”が大切になる。つまり、従業員の“心”とお客さまの“心”が響き合う関係づくりです。
このような発想から生まれたのが、トリドールグループの「心的資本経営」です。最近、「人的資本経営」という言葉が注目されていますが、私たちは一歩も二歩も深く踏み込んで、人の“心”こそが資本であると考える経営に取り組んでいます。その実践を通じて、従業員の力を最大限に引き出し、企業としての価値を持続的に高めていこうと考えています。
「心的資本経営」では、従業員の“心”の豊かさ、つまり「幸せ」(ハピネス)が起点となります。そこからお客さまの“心”の喜びである「感動」(カンドウ)を生み出し、お店の繁盛へと結びつけていきます。このモデルを「ハピカン繁盛サイクル」と名づけ、日々この好循環を実践させていくことを目指しています。
従業員一人ひとりの“心”を起点とするために、「心的資本経営」はけっしてトップダウンで成し得るものではありません。目の前のお客さまに喜んでいただきたい、一緒に働く仲間たちと喜びを分かち合いたい。そんな気持ちが自然に湧き上がってくるような、「内発的動機」を育む環境づくりが重要だと考えています。そのために試行錯誤しながら、さまざまな取り組みを始めています。
「心的資本経営」は、長期的な人材の確保や離職率の改善、さらには地域への貢献など、さまざまな改革につながります。まだ取り組み始めて間もないのですが、離職率の改善や採用増など、早くも成果に結びついています。
わが国は、少子高齢化による人手不足が大きな社会課題となっています。なかでも外食産業では深刻です。この課題に立ち向かうために、フードテックに象徴されるような、人の力に頼らない「省人化」が潮流となっています。
トリドールグループの「心的資本経営」は、このような時代の流れの真逆をいくものかもしれません。しかし、私たちはこんな時代だからこそ、人の中にある可能性を信じ、その可能性を無限に広げていくことで、持続的な成長を遂げていこうと思っています。「心的資本経営」は、日本のみならず、世界で通用するビジネスモデルだと考えています。