DX以前のトリドールホールディングス及び子会社(以下、トリドールグループ)は、老朽化したシステム基盤、サイロ化した業務システム、陳腐化した内製ツール、ボトルネック化したVPNなど、ITシステム上で多くの課題を抱えておりました。これらの課題はグローバルフードカンパニーを目指すにあたり、ビジネスを成長させる過程で大きな足枷になると判断し、2019年9月よりDXへ着手することを決めました。
まずは2019年12月に「ITロードマップ」を策定し、本格的なITシステム刷新およびビジネスプロセス改革へ取り組み始めました。
その後、「ITロードマップ」に続いて、2021年1月に「DXビジョン2022」を発表、2022年11月に「DXビジョン2028」を打ち出して、更なるDX推進に取り組んでおります。現在は「DXビジョン2022」で目指したことは概ね完了しており、経営理念や価値創造モデルの見直しに合わせて、「DXビジョン2028」の内容を更新しながら進めています。
DX以前の状態 | DXビジョン2022 | DXビジョン2028 |
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成長の足枷となるIT基盤 | 業務システムのモダナイズとオフバランス | ハピネス・感動体験を支える基盤の構築 |
1. サイロ化した基幹システム 2. ボトルネック化したVPN 3. 陳腐化した内製ツール | 1. 業務システムのモダナイズ 2. IT基盤のオフバランス 3. ノンコア業務のオフバランス | 1. ビジネス基盤 2. データマネジメント基盤 3. 情報セキュリティ基盤 |
トリドールグループは、お客様の目の前で「手づくり」「できたて」を提供し、お客様に感動してもらうことを最優先に考えており、同時に「トリドールグループの強み」でもあります。
こうした「食の感動体験」をひとりでも多くのお客様に提供するために、これからも「人手」をかけていきたいと考えています。その一方で、この先は就業人口の減少などから「人手不足」の課題があるのも事実です。
そこで私たちは「トリドールグループの強み」と「人手不足」といった経営課題を二律両立の価値観のもと、同時に解決していくためにDX対象範囲を定めて取り組んでいます。これは時代や会社の変化と共に変えていく部分もありますが、「食の感動体験」を大切にしていくことだけは普遍的な価値観です。
お客様への感動体験の創出 | 広く普及しているデジタルサービス | 店舗マネジメント業務 | 本社業務 |
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お客様へ提供する料理、おもてなし | キャッシュレス決済、スマートフォンアプリなど | 売上予測、ワークスケジュール作成、食材発注など | 給与計算、経理記帳、IT運用、コンタクトセンターなど |
人手による価値創造 | DXによるサービス向上 | DXによる合理化・省力化 |
店舗マネジメント業務は多岐に渡りますが、その中でもFLマネジメントに多くの時間を費やしています。具体的には、お客様の来店者数の見込みを算出し、それに合わせて必要な食材の必要量と従業員の配置を日別・時間帯別に計画することです。これらは店舗運営に不可欠な業務であるものの、お客様に感動体験を味わってもらうことに直接つながる業務ではありません。こうした感動体験に結びつかない業務を徹底的に省力化する取り組みを始めました。
具体的にはAI需要予測による売上計画策定の省力化、食材・包材の発注自動化、従業員ワークスケジュールの自動化です。こうした取り組みにより、店舗スタッフは調理や接客に徹することができ、お客様にとって究極の「食の感動体験」を提供できるようになることを目指しています。
飲食店における代金決済は、現金決済・キャッシュレス決済(クレジットカード・電子マネー・QRコード決済・バーコード決済・ポイント決済等)に加え、モバイルオーダ&ペイメントやフードデリバリーサービスなどの事前ネット決済と多様化しています。
このような社会環境の変化に対応するためには従来型の専用機POSではコストと時間を要してしまいます。そこで当社グループではネットサービスと連携しやすいクラウドPOSシステムを導入しています。当社が採用しているクラウドPOSは、iPadとiPhoneのアプリとして動作するため、AppStoreを通じて定期的に機能がアップデートされます。またデータは常にクラウド上に同期されるため、店外でもほぼリアルタイムに販売状況を確認することができます。
1つ目は大手パブリッシャーであるGoogle、Instagramといった大手パブリッシャーへの店舗情報やメニュー情報の配信です。多くの人たちはパブリッシャーを通じて情報収集を行いますので、正確かつ迅速に最新情報を配信するために「社内システムで利用する情報」と「外部へ発信する情報」を一元管理するために店舗情報クラウドシステムを導入しています。
2つ目はオウンドメディアであるコーポレイトサイトとブランドサイトです。これらは非常に多くのお客様に快適にご利用いただくために「静的Webホスティング」と「ヘッドレスCMS」「多言語コンテンツ管理システム」を組み合わせて実現しています。
3つ目はオウンドメディアでもあるスマートフォンアプリです。従来まではiOS版とAndroid版を別々にネイティブアプリとして構築していたため、OSバージョンアップに合わせてアプリアップデートを頻繁に実施していました。そこでデジタル基盤の変化に迅速に対応できるようにするため、アプリプラットフォームの上にブランドアプリを移植しました。これにより、当社はOSバージョンアップから解放され、お客様に提供するコンテンツ制作やサービス運営だけに集中することができました。
トリドールグループは、「食の感動体験」を一人でも多くのお客様に提供するために、これからも「人手」をかけていきたいと考えています。
そのためには従業員一人一人がやりがいを持って働けるように、従業員の採用・育成・労務・評価に至るまでを円滑に行えるビジネスプラットフォームが重要になります。
まず従業員の採用応募から内定までを取り扱う採用管理システムに始まり、入社時の雇用契約や入社後の人事諸届・給与明細・年末調整までを扱う労務管理システム、日々の出退勤を顔認証で行う勤怠管理システム、店舗スタッフの時給と連動した研修や資格管理を扱うラーニングマネジメントシステムなどHRテック分野における複数のクラウドサービスを連携して、人材マネジメントプラットフォームを構築しています。
トリドールグループは、内部統制の評価範囲となる業務プロセスにおいて、IT統制を推進しています。
特に請求書、領収書をはじめとする会計証憑類を全てデジタル化し、伝票起票の自動化や照合・突合業務の自動化を推進し、IT統制の強化と同時に業務の効率化を目指しています。
また、オンプレミスでIT統制を適用する場合には非常に多くの投資を伴う場合がありますが、当社は業務システムにSaaSを利用することを推進しているため、あらかじめIT業務処理統制やIT全般統制に対応可能なサービスを選定し、SOC2レポートを発行しているベンダーを選出することで大幅に投資や費用を低減しています。
トリドールグループは、カーボンゼロを目指すために「カーボンマネジメントシステム」や「エネルギーマネジメントシステム」の構築に取り組んでいます。
トリドールグループは以前からESGマテリアリティに「地球とともに」を掲げ、資源循環の推進に努力してきました。すでに述べた通り、ゆで麺のロスを削減するためシステム導入店舗を増やすほか、エネルギー節約のための電気使用量を自動制御するシステムも導入予定で、これらを世界中で行う方針です。
壮大な目標に向かって、これまでDXによってもたらされた体制を十二分に生かし、予想不能な進化をしっかり支えていきたいと考えています。
トリドールグループは、セキュアで円滑なデータ活用を推進するためにデータマネジメントプラットフォームを構築しています。
当社グループの業務システムは、変化への対応を迅速に行うため、最新のセキュリティ対策や機能へアップデートされていくSaaSをフル活用しています。そのためスムーズに運用するには、SaaS同士の円滑なデータ連携が大切です。
当社グループのデータマネジメントプラットフォームは、iPaaSとデータレイクから構成しています。
iPaaSは、データ変換・ワークフロー自動化・APIマネジメントなどシステム間データ連携に必要な機能を統合したソフトウェアサービスです。
データレイクは、各SaaSより取得した未加工の生データや一次加工のみを行なったデータを保管する場所です。データウェアハウスよりデータの完全性を維持しやすく、ローコストで変化に強いシンプルなデータ基盤です。
トリドールグループは、情報セキュリティへの取り組みとして「ゼロトラストセキュリティ」「脅威インテリジェンス」「情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)」を導入しています。
ゼロトラストとは、デバイスとサーバ間で行う通信を全て暗号化するとともに、すべてのユーザーやデバイスやネットワークを「信頼できないもの」として捉え、情報資産やシステムへのアクセス時にはその正当性や安全性を検証することで、マルウェアの感染や情報資産への脅威を防ぐ新しいセキュリティの考え方です。
脅威インテリジェンスとは、攻撃者から見た自社や自社から見た攻撃者の視点で情報収集する仕組みです。
これらの最新技術とインテリジェンスを有効に活用するために、ISMSを活用して全社的な改善活動を推進しています。
トリドールグループはDX推進にあたり、予測系AI、認識系AI、生成系AIのテクノロジーを活用し、多様な業務の効率化や精度向上に役立てています。
代表的な例はAI需要予測による店舗マネジメントの自動化です。店舗マネジメント業務の一部を自動化することにより、店長はお客様や従業員と接する時間を増やしてもらいたいというのが私たちの狙いです。また、需要予測は食品廃棄ロス削減やCO2排出量の削減にも貢献します。
また、AI顔認証による勤怠打刻を導入しています。従来の指紋や静脈認証で発生していた打刻できない人は発生しておらず、認証に要する時間も大幅に短縮しました。