

食を通じて誰かを感動させられる。それはとても尊い仕事です。トリドールがつくる食の感動の源泉は人です。さらに言えば、人の中にある“心”です。その心を信じて、そこに全力を投じる決意のもと、“心”的資本経営という旗を掲げて、新たな改革を進め、世界で唯一無二の日本発グローバルフードカンパニーを目指します。
私は1985年に兵庫県加古川市で焼鳥居酒屋を開業しましたが、当初はお客さまが一人も来ない日も多くあり、「どうしたらお客さまが来てくれるのか」を常に考え試行錯誤を続け、成長を図ってきました。そのような中、目の前で打ち立て・茹でたてのうどんが出される香川県の讃岐うどんの製麺所で長蛇の列ができていることに衝撃を受け、「人を惹きつけるのは『食の感動体験』なのだ」ということを身をもって強く実感しました。この製麺所を再現することが丸亀製麺の始まりであり、この考えのもと、これまで一貫してさまざまな業態開発や店づくり、メニュー開発、人材育成に取り組み、成長を実現してきました。
感動体験には、「手間暇かけて実演販売などによりお客さまに驚きを与えるもの」や「お客さまの心に響く接客サービスによるもの」などがあります。たとえば、丸亀製麺では、各店舗に製麺機や茹で釡を置いています。これは、機材への投資や、設置するスペースが必要なため賃料がかかり、また、均一なクオリティを実現するための教育も必要となるためランニングコストがかさみ、効率を考えればマイナスですが、製麺機を回し、手間暇かけてお客さまの目の前でうどんをつくり、できたてを提供することによって感動体験が生まれます。うどんのチェーン店は数多くありますが、当社は一貫して「食の感動体験」という付加価値をつけることによって、より多くのお客さまに来ていただけるようになり、セルフうどん市場を確立していったのです。
国内の外食産業は人手不足がより一層進むと予想されており、省人化に向けて注文用端末や配膳ロボットの導入などが進んでい
ますが、私たちは、人の持つ無限の可能性を信じ続け、これからも人によるおもてなしの心を大事にしていきます。奇をてらうことなく、人々が慣れ親しんだ業態に感動体験を加えることで価値を高め、新たな市場を創っていく――それがトリドール流です。
2025年3月期の業績は、売上収益・事業利益が計画を上回り、過去最高を更新することができました。
特に、丸亀製麺は、全国の多くの店舗が最高日商、最高月商を記録し、既存店売上が伸長しました。一部食材の高騰を受けて価格改定を実施しましたが、これまで取り組んできた人材育成に向けた教育や、高度な製麺技術を持つ「麺職人」制度などの成長機会の拡充、人員増によるワーク・ライフ・バランスの向上を通じて、店舗におけるお客さまへの対応が充実したことなどにより、値上げに対しお客さまの理解を得られたことは大きな要因と考えています。また、2024年6月から発売中の「丸亀うどーなつ」が大ヒットとなり新規顧客を獲得できたことなどが、売上増につながりました。「丸亀うどーなつ」は構想から約3年をかけて開発しましたが、このようなトライをしたことは社内の大きな変化であり、お店で生地から手づくりして手間のかかる商品を全店で販売することができたのは、各店舗のモチベーションが上がっている証と捉えています。
国内におけるその他の業態についても、姫路発のとんこつラーメン店「ラー麺ずんどう屋」は100店舗を達成し、“いちばん近いハワイ”をコンセプトとした「コナズ珈琲」も出店・改装を進めたことなどにより大幅な増収となり、両業態ともに売上収益が110億円を超える規模に成長しました。ラー麺ずんどう屋は、セントラルキッチンの建設に伴う設備投資などの影響により減益となりましたが、今後、同施設の稼働により効率性を高め、利益増につなげていきます。
海外事業は、香港のTam Jaiや、2024年3月期の第2四半期に連結子会社となった英国Fulham Shoreの寄与、MARUGAME
UDON USAや台湾の成長などにより増収となりました。FulhamShoreについては、改めて当社の想いや成功体験を注入しながら2025年から2026年にかけて業績の改善を図っていきます。海外事業においては本格的な展開に向けて人材が揃い、新たなフェーズに入ってきたと手応えを感じており、大きく花開かせていきたいと考えています。
2025年5月15日に発表しました2026年3月期の業績予想は、過去最高となる売上収益2,820億円、事業利益196億円(事業利
益率7.0%)、営業利益146億円(営業利益率5.2%)を計画しています。国内事業は勝ち筋の業態を中心に出店を加速し、海外事業はポートフォリオの見直しと収益性改善に注力するとともに、日本から海外へ繁盛店づくりのノウハウを移植する体制を強化します。
2028年3月期を最終年度とする中長期経営計画については、M&Aを含めた経営計画数値を掲げていましたが、M&Aは引き続き積極的に取り組んでいく一方で計画値に含めると数字に縛られて誤った判断をしてしまう懸念があると考え、より蓋然性の高いオーガニック成長による計画へと見直し、2028年3月期の目標を売上収益3,330億円、事業利益275億円(事業利益率8.3%)、営業利益230億円(営業利益率6.9%)としました。国内事業は積極的な出店戦略を通じて成長を加速させる一方、海外事業は2025年3月期から2026年3月期をグループ一体での業態力・マネジメント力の強化フェーズと位置づけ、中期的な再成長に向けた基盤構築を推進し、グループポートフォリオの最適化と持続的な企業価値向上を図っていきます。
私たちは今後も成長に向けてお客さまに「食の感動体験」を提供することを追求していきますが、そのためには、社員やパートナースタッフの方々が楽しく、前向きに取り組めるようにすることが何よりも重要です。この考えのもと、これからは「ハピカン経営」※1を推進し、働く人のモチベーションやエンゲージメントを向上することで、より多くの感動体験を提供し、多くのお客さまに喜んでいただいた結果、お店が繁盛して売上・利益が拡大し、その利益がともに働く仲間に還元されていくことで、さらなるハピネスが生み出されるという好循環を確立していきます。

その中で、特に重要なのは「心」だと考えています。心こそが最大の資産であり、私たちが標榜するのは「人」を「心」に変えた「心的資本経営」です。この変化により、パフォーマンスは何倍にも変わっていきます。心が変わることで、お客さまによい体験をしていただこうという想いが生まれ、一人ひとりが内発的動機をもって自ら考えて判断し、より多くのお客さまに感動体験を提供できるようになります。たとえば、お客さまがうどんをこぼしてしまったときや、泣いている小さいお子さまをあやしている間にうどんが冷めてしまったときに、それに気付いて新しいものに取り換えるといった行動です。今でも行われていますが、このようなお客さまの心に寄り添った行動が私たちの店舗ではごく自然な行動となることを目指します。
そのためには、店舗で働く方々の「心の幸せ」の醸成が大切と考えています。お店に行けば働く仲間が自分の趣味や楽しみを知っていて、親しく会話ができるつながりがあって、お店が大好きと言ってもらえるような、安心感のある環境をつくることが大事です。そして、そのようなお店で自分が商品やサービスを提供してお客さまに喜んでいただくことにより、貢献実感を得ることができます。それは誇りへと変わっていき、家族や友人に自慢したくなります。このサイクルをトリドールハピネスモデルとして、「安心感」「つながり感」「貢献実感」「誇り」の4つを実現することで「ハピネス」の向上を図っています。
その取り組みの一環として、現在、お店の最高責任者としてハピカンオフィサー(HKO)の育成、全店舗への配置を進めています。HKOは、お客さまに喜んでもらいたいという強い気持ちを持ってスタッフの見本となる対応を行い、つながりを大切にしながら仲間のモチベーションを高めていけるリーダーであり、独自の権限を持ち、たとえば従業員の誕生日会やチームビルドにつながるバーベキューなどのイベントも開催できます。HKOを全店に配置すれば私がここで指示するよりも圧倒的に大きな効果を生み出すことができ、これから同業他社を大きく引き離していく武器になります。
人的資本を強化するためには、長年にわたってスキルを磨き、技量を高めた人材が増えていくことが重要であり、それが安定した高い品質、お客さま満足度の向上につながります。外食業界は比較的高い離職率ですが、当社の離職率はさまざまな取り組みを試行錯誤しながら進める中で低下してきており、これからより一層働く人の心に響く施策を実施していきます。
※1 社内では「ハピカン経営」として2年前から取り組んでいましたが、より広く世界にも発信していくために「人的資本経営」を深化させた経営の在り方として「心的資本経営」という言葉を使用しています。
トリドールグループが目指すのは、世界で唯一無二の日本発グローバルフードカンパニーです。ラーメンや寿司で海外展開を先行している企業はありますが、私たちはまずうどんで追随し、やがて追い越していきます。天ぷらなどもあわせて「MARUGAME UDON=日本食」として、世界中で多くの方々に親しんでもらえる日本を代表する外食企業となることを目指します。
そして、丸亀製麺だけでなくマルチブランドに展開して勝ち筋を複数持つことにより、各エリアでの消費特性などの情報収集や分析の高度化、気候変動による食材調達のリスクヘッジ、出店余地の拡大などを図り、成長の確度を高めます。私たちはこれまで多くのチャレンジと失敗を経験してきましたが、新しいチャレンジを繰り返すことで、知見を高め、成長を実現してきました。これからも絶え間なく挑戦を続け、複数業態で細胞が増殖するように世界で店舗を広げ、感動体験によって需要を創造していきます。

2023年および2025年に国内の全社員と世界中の社員※2を一堂に集め、経営理念や感動体験について浸透を図りました。その後もKANDO Forumと称して世界のリーダーをリモートでつなぎ、KANDOの浸透と実践についてディスカッションをしました。さらに、2025年5月には世界のリーダー70名以上が渋谷オフィスに集結し、「ハピネス」をテーマに、KANDO WEEKと称して1週間にわたって「ALL TORIDOLLハピカンMEETING 2025」を開催しました。今回も世界各地のリーダーが集まり、店舗の見学やワークショップも実施し、当社理念への共感、トリドールにおける成功体験への理解を深めてもらいました。
一方で成長に資するガバナンス体制の強化を図っています。たとえば社外取締役に関しては、当社の売上収益が2,000億円を超え、海外事業が拡大してきたことを踏まえ、2025年度には経営者、事業経験者の2名に社外取締役に就任いただいております。組織・チーム力が強化されれば、もっと大きなことを成し遂げることができます。次のステージを見据え、さらに多くのプロフェッショナル人材を集めていきます。
当社のグローバル展開はスタートを切ったばかりで進出先は無限の広がりがあり、大きな可能性に満ち溢れていると感じています。私はその中でも世界を席巻している外食チェーンを多く生みだしたアメリカを意識し、アメリカでも勝てる、世界に通用する外食企業になりたいと考えています。「予測不能な進化で未来を拓くグローバルフードカンパニー」となり、世界的な大手チェーンにも肩を並べる、世界で目標とされる外食企業となることを目指しています。
トリドールグループのさらなる進化、飛躍にどうぞご期待ください。
※2 2023年約2,000名、2025年約2,200名
東利多控股有限公司
董事長兼首席執行官
